ドミニカ共和国研修旅行①アルタグラシア編

ドミニカ共和国研修旅行①アルタグラシア編

サンディエゴ州立大学スポーツMBAのウリの一つにドミニカ共和国への研修旅行があります。

約一週間の旅程は次の通りで、シリーズとして回を分けて研修旅行について書きたいと思います。

■旅程

サントドミンゴMLBオフィス訪問

アルタグラシア村訪問

パドレスベースボールアカデミー訪問

地元リトルリーグと交流

ラス・テレナス 観光

ドジャースベースボールアカデミー訪問

バンコ・デ・レオン MLB展示館訪問

メッツベースボールアカデミー訪問

旅行の目的は、誤解を恐れず直球的な表現をすれば、我々スポーツMBA生が将来的に管理職につき、意思決定者になったときに、自分たちの意思決定の先にいる末端の人たちの存在を忘れず意思決定ができるようになるためです。

研修旅行の前には三冊の課題図書が与えられ、ドミニカ共和国の歴史、変遷、ドミニカ野球史および野球の社会的問題点などを予習して旅行に臨みました。

 

■アルタグラシア編

個人的にもっとも強烈なインパクトがあった課題図書にアパレルメーカーの下請け工場を担っているアルタグラシア社の工場の話を扱った Sewing Hope という本があります。今回の研修旅行ではこの本に出てくるアルタグラシア工場を訪問しました。

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▲工場入り口 ”Life Changing Apparel”(人生を変えるアパレル)

日本語訳本はないようなのでサマリを書きます。

ドミニカ共和国にあるビラアルタグラシア村では、ナイキなどのスポーツアパレルブランドの下請け工場がいくつか存在する。その労働者たちは、サービス残業、違法賃金水準、暴力、性差別、児童労働など、人権侵害で劣悪な労働環境で働かさせられている。
そのような工場での賃金水準はアメリカドルにして時給80セントでドミニカ共和国で健全に暮らしていくための収入には遠く及ばず、子供のいる家庭では親が食事を抜いて働くのが常態化していた。子供を妊娠していたある女性は仕事中にお腹に激痛を感じ医者の助けを求めたが、上司が許さず、流産してしまった。子供を保育施設にあずけているのに強制残業させられ、期限時間までに迎えに行こうと逃げ出そうとしたある母親は警備員に捕まり殴られ引きずり戻された。

待遇改善を目的に組合を組織してストライキを図ろうとする者は時々出てくるが不満分子として解雇されたり、職場でのイジメを受けたりすることになり、従業員達には心理的に大きなためらいがある。

アメリカの大学生たちの間でこれらの業者を使っているメーカーの不買運動が始まり、国際人権保護団体やドミニカ共和国の人権保護団体が組合活動に加勢するが、逆に工場がビラアルタグラシア村から撤退する事態となり、多くが職を失ってしまった。

しかしこの頃、学生団体とNGO団体はアパレルの下請けをするナイツ社と協力して、労働者の生活水準と人権を保障した
経営体制構築を試みた。この試みはまず、マトモな生活をするにはどれくらいの収入が必要か生活賃金 Salario Dignó の試算から始まった。結果時給は三倍以上の2.80ドルに設定された。また、組合の組織化も認める上、医療保険の保障など労働者としての権利が様々改善することが計画された。そして、何年何月、サプライヤーが放棄した工場でアルタグラシア社が結成された。学生団体の尽力により、服の供給先は各米国大学構内で売られるアパレルに決まった。職場は笑顔に溢れ、生活水準の改善により、生産性は向上した。損益分岐点水準にも届く供給量をなんとか確保することもできたが、アルタグラシアの活動を知る、賛同するアパレルメーカーは少なく供給先を募っている。

▲新体制の工場

読んでの通り、とても痛ましい日常が今でもアルタグラシア工場以外の工場では存在しています。Salario Dignó を保障している環境の従業員は、三食家族で食べられるようになっただけではなく、大学に通って教育を受けたり、貯金で起業をしたり出来るようになったり、村での経済活動の活発化に貢献しています。あまり自分の服がどのようなサプライチェーンを辿って作られているのかを意識したことは無かったですが、本の描写が強烈で考えさせられました。自分の着ている服がもし人権を無視した製造過程で作られているとしたら、それはやはり着たくないですし、将来的に意思決定者になったときには決定の先にどんな人達がいてどんな影響を及ぼすかを少しでも深く考えると思います。

実際に工場を訪問して、旧劣悪体制下の工場と新体制下の工場両方で働いていた人2名から話を直接聞いたのですが、ますます話に具体性が沸き、今回の読書や村訪問で培ったコストカットに関わる倫理観についてはいつまでも大事に持っておきたいなと思いました。